現場レポート
台風により停電、そして災害地での復旧活動。そこで見えてきた“仕事の素晴らしさ”とは?
ここ数年、毎年のように日本にやって来る大型の台風。それにより、河川の氾濫や土砂崩れ、そして停電が発生しています。そんな時、災害地に向かい、電気の復旧活動をする人々が、関東電気保安協会の職員たちです。電気が使えず困っている人を助けるために向かった現場でどんなドラマが生まれたのでしょうか? 実際に復旧活動をされた関東電気保安協会の3人に話を伺いました。
※撮影時のみ特別にマスクを外し、インタビューはマスクを着用したうえで、換気をした屋内で実施いたしました。
電気が使えず廊下でうずくまる高齢者の姿を見て、茫然となる…。
――2019年9月9日に千葉県に上陸した台風15号。岡村さんと阿部さんは、実際に被災地に向かい、現地で復旧活動をされましたが、その際に印象的な出来事はありましたか?
岡村篤人さん(以下、岡村)「SNSが普及した現代ならでは、と思ったエピソードがあります。ある方が、Twitterで『電気設備が壊れていて、LBSという部品があれば直る』と呟いていたんです。偶然にも、その投稿を関東電気保安協会の職員が発見。そこで、本部からの指示で急遽、私と阿部で投稿者の元へ向かいました」
芹澤裕一さん(以下、芹澤)「私は本部にいて、被災地に向かう技術者たちに指示を出す立場。そのため、実際に復旧活動をする職員たちから、現場の話をよく聞いていましたね。印象的だったのが、ある老人ホームのエピソード。施設が停電していたので、ある職員を現場へ向かわせました。すると、停電の原因が鉄塔の倒壊による、送電の不具合だったと分かったんです。私たち関東電気保安協会は、送電の復旧活動は出来ません。目の前にいるお年寄りの方々は、廊下にうずくまり、何もできずに困っている。とはいえ、私たちは作業ができないので、待つことしかできない…。そんな状況が辛かったと言っていましたね」
――緊急時ゆえの苦労は?
阿部貴成さん(以下、阿部)「苦労と言うか、戸惑ったことはありましたね。今回、全国の電力関係者が応援に来てくれたのですが、(関東エリアを中心としている関東電気保安協会にとって)電力会社さんと言えば東京電力。でも今回は、中部電力や九州電力などともやり取りがあり、会社が違えば作業方法も異なるんです。そのため、最初はいつもと違う流れに少し戸惑うこともありました」
岡村「ただ、みんな電気に携わる仕事をしている“電気のプロ”。そしてみんな、電気を復旧させたいという強い思いで懸命に活動していたので、作業を進めている中で“戸惑い”は消え、最後はスムーズな連携が取れました」
団体や企業の垣根を越えて、電力関係者みんなで復旧活動
――災害時は、関東電気保安協会だけでなく、複数の会社さんとのやり取りが輻輳しますよね。そういった時、どのように調整するのでしょうか?
芹澤「本部では、情報共有が重要なミッションでした。また他社との情報共有の中で、とくに東京電力さんが発信する情報は重要です。そのため、関東電気保安協会の職員が東京電力さんに出向し、直でやり取りをしていました。おかげで情報のタイムラグを減らすことができましたね」
阿部「現場作業の中で、何よりも気を付けていたのは感電しないようにすること。現場で作業をするみんなと密にコミュニケーションを取らなければ、誤って感電する可能性があるんです」
岡村「台風15号による停電の復旧活動では、いろんな企業が携わりました。作業を終えた後、東京電力さんの発案で、復旧作業に携わったみんなで集合写真を撮影したんです。その時は会社の垣根を越えて、電気に携わるみんなが集合しており、一体感がありました」
――現場で作業をする技術者の職員は、ご自宅には帰らず、復旧活動をしていたんですか?
阿部「そうですね。千葉県にある事業所に寝泊まりしていました」
――それは大変…。
阿部「でも私たちはシャワーを浴びて、ちゃんと寝泊まりできる。一方、被災された方は、建物に電気が通らず、困っていて、何だか心苦しかったですね」
岡村「電気は使えて当たり前と思われていますが、災害時は使えなくなりました。私たちが現場へ向かい、電気が通常通りに使える状態になり、部屋が明るくなった時、みなさんから感謝されましたね。心から『ありがとう』と言われる現場が多くて、なんてやりがいのある仕事だろう!と改めて実感しました」
芹澤「私たちは現場で電気がちゃんと使えるようにするのが仕事です。電気が作られ、送電され、送られた電気がちゃんと使えるかどうかを判断する。この最後の部分を担っているので、電気を使う人と直接、触れ合うことができます。そのため、感謝の言葉を直接、言ってもらえる。やっぱり感謝されるのって、気持ちいいですよね」
電気を守ること、電気をいつでも使える状態に保つこと。それが僕らの役割だ
――素敵なお仕事ですね。最後にお聞きしたのですが、みなさんにとって“電気”とはどんな存在でしょうか?
芹澤「あって当然の存在。でも、私たちがいないと、みなさんの元に届かないのが電気。人生を楽しんでいただくために、電気を守ることが自分の役割かなと思っています」
岡村「使えて当たり前の存在。それを守るのが私の仕事であり、天職です」
阿部「電気とは“いつでも使えるもの”。コンセントにコードを刺せば、使えるのが当たり前。そして仕事をしている者としては、コンセントに刺せば、いつでも使える状態に保つ。それが私たちの使命です」。
<関東電気保安協会>
1966年2月15日設立。関東の1都6県と山梨県・静岡県富士川以東の企業・家庭向けに電気の点検・保安業務を行っている一般財団法人。2019年9月に首都圏を直撃した台風15号により、停電したエリアの復旧活動をし、その功労が認められ、翌年には「電気保安功労者経済産業大臣表彰」を受賞した。
<執筆>
野田綾子