現場レポート
消えた明りを取り戻せ! 復旧活動で求められる志とは?【中部電気保安協会座談会・前編】
2019年10月12日に上陸した台風19号。日本各地で多大な被害が発生しましたが、中でも長野県が受けたダメージは特に甚大なものでした。河川は氾濫し、多くの建物や家が浸水被害にあい、電気の供給がストップ。「電気が使えない」。そんな状況に困惑する人々を救うため、中部電気保安協会の長野営業所の皆さんは切磋琢磨して、復旧活動に努めました。前編と後編に渡ってお送りする、“電気の復旧活動”。前編では、当時の復旧活動について、実際に復旧活動に従事された早川さん、森川さん、田平さん、そして多田井さんの4人に語っていただきました。
【座談会メンバー】
・早川隆明さん
中部電気保安協会・長野営業所の所長。
・森川弘さん
調査課副長。一般家庭の電気設備の調査業務を担当。
・田平文博さん
保安課課長。自家用電気工作物の保安業務を担当。
・多田井文浩さん
特任技師として自家用電気工作物の保安業務を担当。
橋は崩壊、家がまるごと流される…。台風19号はあらゆるものを壊していった
――今回は、台風による電気の復旧活動をテーマに、お話を伺えればと思います。2019年10月12日に上陸した台風19号は、長野県に大きな被害を与えました。長野県はあまり台風が通過しないイメージがありましたが、どんな状況だったのでしょうか。
早川「そうなんですよ、長野は山に囲まれていますから、普段から台風があまり通過しない地域なんです。今まで台風被害が小さかった土地へ、台風19号がもたらした被害はすさまじかったですね…」
――具体的に、どんな被害がありましたか?
早川さん「千曲川が氾濫し、ローカル線の上田電鉄の橋が崩壊しました。長野県東部では300ミリを超える大雨となり、長野県全域で、死者3名、重傷者4名、9066世帯が床下浸水の被害を受けました。私たちが担当する長野市でも、多くの市民が被害を受け、路頭に迷っていました。台風が去った後、車で道路を走っていると、水浸しになっている車が転がり、工場などの施設は冠水により、建物内は泥だらけで」
多田井さん「私自身、心が痛んだのは病院ですね。電気が止まってしまい、そこで入院されているみなさんは復旧するまで、電気なしで過ごさないといけなかったそうです。その話を聞いた時は、多くの市民が悲惨な状況に追いやられているのだと心が痛みました。幸い、電気は24時間後には復旧し、事なきを得たそうです」
森川さん「テレビでも放送されましたが、堤防が崩壊したことで、住宅がまるまる流されたエリアもありました。ある日、高台に登って、長野市を上から眺めたら、以前、家が密集していたところが湖のようになっていたんです…。その時、自然の恐ろしさを感じましたね。まだ避難所生活を送られている方もいますので、1年を経過した今でも、台風19号の復旧は終わったとは言えません」
電気の復旧活動。最初にすべきことは電気のオフ
――台風19号が通過した後、どのような復旧活動をされたのでしょう。
早川さん「10月12日に台風が上陸し、翌13日から復旧活動が始まりました。私はここ長野営業所の事務所にいて、被害状況を確認し、外部企業と連絡を取る、パイプ役として動いていました」
田平さん「私も長野営業所の事務所にいました。早川所長が全体に指示出しをする中、私は工場や学校など、大きな建物の電気設備の復旧活動の指示出しをしていました。どの現場にどの作業員を向かわせるかなど、必要な判断を行う司令塔のような立場でした」
多田井さん「私は田平さんの指示を受けて現場へ向かい、復旧作業をしました。まずは浸水した建物へ行き、電気設備が使えるか・使えないかを確認。使えるものは修理をする必要がありませんが、使えない電気設備は修理または交換作業を実施します。そして、ここが重要なのですが、電柱のスイッチをオフにして、建物に電気が流れない状態にするんです」
田平さん「電柱のスイッチをオフにする理由は、安全を守るためです。浸水で建物そのものが水に濡れていますから、そのまま電気を流してしまうと、感電や火災を引き起こす危険があるんです。なので、台風の後にすべき第一のことは“電気を切る”こと。それが初動となり、次に異常のない建物に電気を送る作業をします」
――異常がある場合、どんな作業をするのですか?
田平さん「電気機器を交換します。そして、電気を流しても安全かどうかの検査をし、問題なければ、電気を復旧させます。実はまだ私たちが担当する中には、いまだ電気を通せない建物があるんです。2019年の台風19号の上陸から1年以上も経っているのに…」
早く電気を復旧させたい! しかし、焦りは禁物
――復旧活動はまだ終わってないんですね。森川さんは一般家庭の電気設備の復旧活動をされていたそうですね。
森川さん:「はい。作業内容は多田井さんとほとんど変わりありません。我々は中部電力さんの指示のもと、浸水した一般家庭のお客様宅に伺い、電気の安全状態を目視と測定器等で点検し、安全が確認できれば電気をお送りする業務です。多田井さんの作業と違うところは、中部電力さんとのやり取りが発生するので、作業の安全を担保するうえでも、いつにも増してしっかりと連携することを心がけました」
――現場で復旧活動をする上で、大事にしていた点は?
田平さん「一番は安全。電柱が倒れていたり、建物が濡れて感電したりと、あらゆる危険がありますが、常に安全に作業し、無事に帰ることを意識していました」
早川さん「現場へ出向く技術者たちは、数々の悲惨な現場を目の当たりにしています。そうすると、お客様を想うあまり、1秒でも早く電気を復旧しなければならないという使命感にかられるんです。そういう時って、つい、気持ちが焦ってしまいますよね。そして無理をしてしまい、事故が発生する可能性が上がる。ですから、災害時こそ、落ち着いて安全に作業して欲しいと思っています。私自身、事務所で見守っていましたので、現場へ行く技術者たちに、食事をちゃんと取るようお願いしていました。こういう時こそ、体調管理が重要なのです!」
【取材協力】
1965年12月1日に、財団法人中部電気保安協会として設立し、2012年4月1日に、公益法人制度改革に対応して、一般財団法人へ移行。愛知県、岐阜県(一部を除く)、三重県(一部を除く)、静岡県(富士川以西)、長野県に48箇所の営業所を構え、電気設備の保安管理業務の委託のほか、一般家庭の電気設備の調査業務も行なっている。
【執筆】