電気予報士・伊藤菜々さんレポート!電気主任技術者さんの停電年次点検に密着!

更新日:2023.07.07投稿日:2023.07.07

電気主任技術者さんになると高圧設備の点検を行います。月次点検は基本的には1月に1回外観点検と測定を行います。年次点検は年に1回停電をさせて、月次点検では測定しきれない部分の測定や、不具合がある箇所の取り換え、キュービクル内の掃除などを行います。営業している時間をさけるために夜間や休日の作業になることが多いです。今回はそんな夜間の月次点検に同行、見学させていただきました。
左:電気主任技術者として独立間近の細沼さん
右:電験3種取得仕立ての伊藤さん

月次点検と年次点検の違い

月次点検は毎月定期的に行われる点検です。月次点検では、目視で異常の有無を確認し、簡単な計測を行います。具体的には外観や周辺の異常、設備のスイッチなどが故障を確認したうえで、電気設備の電圧、電流、絶縁抵抗測定を行います。もし異常を発見した場合は、次回の年次点検時に交換するか、臨時点検を行いその際に部品の交換などを行います。 年次点検は、1年に1回行われる点検で、月次点検より点検がきめ細かです。電気設備の安全性や機器に劣化がないか、細かな測定をして劣化や不具合があればオーナーさんにお知らせし、交換や修理の検討をしてもらうために停電させて実施します。電気設備の内部構造と配線の点検、電気設備の性能や電力効率を計測し、そこで見つかった問題や劣化した部品の交換や修理を行います。 月次点検は停電を伴わないため、点検をする物件の担当者の方に説明をしておけば問題ありませんが、年次点検の場合は停電も伴い大がかりな検査になる為、事前に需要家さんとのやりとりも大事です。今回、付き添いさせていただいたのは多数のテナントが入るビルの年次点検でしたので、事前に各階のエレベーターホールに張り紙で告知しておいていただきました。

年次点検で行うこと

年次点検では、まずは物件全体の停電をします。電力会社から受電しているポイントにある開閉器を開き、電気を止めて作業を行うため、安全に停電をし、元の通りに復電することが重要です。 停電手順は順番を間違えると、電気主任技術者が大怪我や感電したり、周りの需要家さんを停電させてしまう波及事故にもつながったりしますので、数名で集中して行います。この日は電気主任技術者さん3名体制で、キュービクルのある屋上に1名、下の電力会社からの受電点に2名が張り付いて停電を行いました。トランシーバーで連絡を取り合い、一つずつ手順通りに小さいブレーカーから解放し、大もとの受電点の開閉器を解放しました。付き添っていた私も緊張感を感じました。

停電作業が終わったらキュービクル内に残っている感電のもととなってしまう電荷を取り除き、接地線を取り付けます。接地線とは異常電流が発生した時に大地に電気を流し安全を守るためのものです。これをキュービクルの内部の断路器に取り付けます。2mくらいの位置にあり、金属製のバーを挟むための大きな洗濯ばさみのような接地器具を取り付けていきますが、これがとても硬く、高い位置へ背伸びをしながら片手で取り付けるのは至難の作業です。これで準備完了です。

ここからは月次点検の内容に加え、専用の測定機器を使って、絶縁抵抗値を測定したり、保護継電器の動作が正常化確認したり、キュービクル内の清掃を行ったりします。機器の計測には外部から電源を取って試験電圧や電流を流します。電気主任技術者はそういった、機器計測の道具や、停電時も作業をするためのライト、外部電源として使えるバッテリーや発電機など、さまざまな道具を携えています。 参加した点検場所では、10階を超えるビルの屋上にキュービクルが設置されています。 雨の場合、計測値にも変化が出てしまうので、キュービクル全体をブルーシートで覆うなど、雨に濡れない対策が必要です。暗い中で機器を準備して、テキパキと作業されていた熟練の電気主任技術者さんを見て、現場経験も豊富であらゆる状況に対処することが大事なのだと感じました。 全ての作業が終わったら送電をします。最後まで手順通りに送電作業を行い、ブレーカー前ではダブルチェックをして元の状態に戻します。特に接地器具の取り外し忘れがあると、近隣エリアへも波及事故を起こしてしまうことです。接地器具は標識を掲げたり、ダブルチェックするなどして取り外し忘れには気を付けます。 またビルの各階に貼ってある、停電のお知らせをはがすこともお仕事で各階を巡回しました。 電気の安全を守ると同時に、電気の安定供給を守ることも電気主任技術者さんのお仕事です。今回の点検でかかったのは3時間程度。時間内に作業を終わらせる必要があるため、始終緊張感が隣り合わせでした。年次点検での停電、送電作業の手順は試験にも出るほど重要なことです。詳細についてはぜひyoutubeを見てみてくださいね。

電気主任技術者さんのお仕事の大切さと働きかた

電気主任技術者は月次点検、年次点検を行うことで電力の安全を守っています。電気設備の点検は電気を使用する人の安全はもとより、電気の使用効率を保つことでもあるため、非常に重要です。 今回は、電気主任技術者としての経験を数年積み、23年夏に独立して活動をする細沼ありささんの修行現場に同行させていただきました。細沼さんから先輩方への感謝や、業界を目指す方へのメッセージをいただきました。 「来月から個人での電気保安管理がついに始まります。今まで教えてくれた先輩方に感謝しかありません。人との繋がりの大切さやお客様との向き合い方、技術も教わりました。この電気の業界を今まで支えてきた先輩方と一緒に今後の電気業界を作り上げていくことを誇りに思っています。 電気主任技術者は専門技術が身につくし、将来的に独立もできます。経験や知識が確実に役に立ち、努力が活かせる素晴らしい職業ですよ」

電気業界では知識を惜しみなく教えてくれたり、独立した人に案件を紹介してくれたり、独立しても安心して働ける環境があります。私は電験三種を取得しましたがまだ実務経験はありません。同じような悩みを持っている方は多くいるようなので、今後、現場の経験を積める機会や、女性も働きやすい環境、スマート保安の技術の導入など、できることへ取り組んでいきたいと考えています。私も電気主任技術者の駆け出しとして、これから経験を積んでいきますが、発信を続けていくことで経験の積み方や、仕事の内容、点検のコツなど参考になれば幸いです。

プロフィール

伊藤菜々(いとう・なな)


上智大学経済学部経営学科卒業。電力全面自由化に伴い新電力の立上げに関わった後2019 年から独立し、現在の有限会社スタジオガルを開業。

電力事業の立ち上げ・運営支援、企業PRや商品広報、ZEH住宅やマイクログリッド等の地域脱炭素活動を行う。実績として、電力会社や企業での講演、学校での講義、展示会やイベントの出演を行う。 電気業界をたのしく!わかりやすく!解説した Youtube チャンネル「電気予報士なな子のおでんき予報」を 2020 年 4 月開設し情報発信中。 第二種電気工事士、電験三種取得。現在電験二種の合格に向けて勉強中。

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