電気業界の仕事とは?
パリで国際会議デビュー…!? 電気保安協会の若手社員が見た世界の電気保安事情とは(後編)
電気保安協会全国連絡会では、海外の電気保安の組織と定期的に情報交換を行っています。2023年10月、本部をパリに置く、電気設備の検査関係業務を手がける公益法人、フランス電力需要家保安協会(以下、CONSUEL)との情報交換会へ、電気保安協会の社員3名が参加しました。WattMagazineでは、普段は耳にすることができない気になる海外の電気事情について伺おうと、3名に会議を通して学んできたことをインタビュー。
後編では、日本と海外の違いなどについて語っていただきました。
今回のインタビューにご参加いただいた3名
九州電気保安協会 加藤明人さん 1991年2月生まれ。熊本県出身。入社後、大分支部へ配属。保安管理業務や試験・技術業務に従事し、2017年より本部に異動となり、現在は事業部保安Gとして保安業務全般に関わる業務を実施しています。 四国電気保安協会 福本康二朗さん 1987年8月生まれ。高知県出身。地元の工業高校を卒業し、2006年入協。現場で保安管理業務に従事し、2017年からは本部に異動となり、現在は監視装置の開発・運用と技術教育を担当している。 中部電気保安協会 堀米治仁さん 1989年2月生まれ、2010年に中部電気保安協会に入社。自家用電気工作物の保安点検業務に従事し、現在は本店保安部運営グループに所属。太陽電池発電に関する業務を行っています。
日本の保安体制は世界トップクラスだと改めて実感した
――他国のプレゼンを聞いて、印象に残ったことはありますか?
福本さん:参加国の多くが、日本のような住宅への定期調査や業務用施設の定期点検の義務が無いと知りました。定期調査を行って感電や漏電火災を減らしたいものの、それが実現できない一番の課題は「費用面」。とくに発展途上国では費用を捻出することが難しいようで、私たちの仕事は当たり前ではないのだと気付かされました。 電気工事については、自己責任を前提に、資格を保有していなくても施工できる国もあるようです。そのため、国の基準に適合していない物件が多く存在しているという内容を聞き、日本の電気工事士法や電気主任技術者制度などの電気安全に関する制度レベルの高さを再確認することができましたし、改めてこの仕事への意義や重要性を認識しました。
加藤さん:もっとも印象に残ったのは、フランスが発表していた、浴室でのスマートフォン使用による感電事故の話です。防止策として、電気工事などを行った後にCONSUELが、浴室の接地導通などの点検を実施しているとのこと。国内ではあまり聞いたことのない事例だったため、改めて国内の電気設備の安全性は高いのだと実感しました。 そのほか、海外は電気保安体制が確立している国の方が少ないため、どのように保安体制を確立していくのかというプレゼンが多かった印象です。インフラとして重要な電気設備ですが、一度設置をすると、そのまま使い続けることになります。安全を維持するには、いかに保守が重要であるかについて語っている国も多かったですね。
堀米さん:海外では日本で起こり得ないような事故事例が問題になっているところもあり驚きました。また、参加国の中には電気保安システムが確立していない国もあり、日本の電気に対する安全意識の高さを認識できました。
――参加したことでどのような気づきや学びがありましたか。
福本さん:電気保安制度については、CONSUELとの情報交換と検査への同行をさせていただきました。その中で、住宅の竣工検査が日本のように全戸数ではなく、設備の内容や施工者のレベルに応じて一部抜き取りにて実施していること、手続きや検査結果のペーパーレス化によりシステム化されていることを体験し、本社の人数は少なく、非常に効率的な制度となっていると感じました。加えて、日本では見ない計測器や電気用品に触れたり、日本には無い検査手法を見学できたことは、とても興味深い体験ができました。 FISUELの国際会議の中では、発展途上国から電気のインフラが整うにつれて、日本では当たり前になっている電気保安制度の構築を目指しているという発言がありました。 日本のように定期点検をベースとして電気安全を確立していくことは、非常に有効なことですので、こうした国際会議の場で日本の電気保安制度や保安の技術を積極的に発信していくことは、生命・財産・環境を守り、SDGsにもつながると思いました。 他方で、日本では人手不足が深刻化しており、電気保安をスマート化していくことを検討していることから、FISUEL加盟組織に限らず、先進技術を取り入れた計測器やIoT・AIによる監視技術などの新たな取組み事例について情報交換できれば、国際会議に参加する意義が大きくなると感じました。 加藤さん:今回の経験を通して、自分に自信がついた気がします。国際会議での発表は非常に緊張しましたし、内容に対してどのような反応・意見が返ってくるのか、直前まで大きな不安を感じていたんです。堂々と発表ができましたし、海外の方からの太陽光関係の質問にも答えることができましたので、自分の中で達成感を感じています。 堀米さん:国によってシステムのレベルは異なりますが、電気保安の重要性に関する思いは共通していたと思います。より多くの人に電気を安全に使ってもらいたいという志を持つ人たちとの交流により、参加前と比べ私自身の保安業務に対する思いは一層強くなりました。
一緒に電気の安全を守っていきませんか…?
――今回の経験を通して学んだことと共に、電気業界を目指す人へメッセージをお願いします。
福本さん:海外にいることで、日本の電気保安制度や日本食の素晴らしさを実感できたことが一番かもしれません。 私たちは、日々の仕事が「電気を通じた社会貢献」であることに誇りを持っています。そして、今回の経験を通して、日本の保安制度や技術は非常に高いレベルであり、世界に誇れるものだとわかりました。電気の重要性が増す世の中で、あなたも一緒に、電気の安全を守る人になりませんか? 加藤さん:生活インフラとして必要不可欠な電気。電気を安全に作り、送り、維持していくためには、電気保安の仕事は非常に重要な立ち位置だと私は考えています。人口減少や技術者の高齢化に伴う電気主任技術者の不足など、多くの課題がありますが、今後はDXの推進やAIの活用により、電気業界も進化を遂げていきます。新たな知見やさまざまな経験を持つ方、電気の未来を一緒に変えていきませんか。 堀米さん:電気保安業務は、社会を支えていることを直接的に感じられる仕事です。技術職の方は電気主任技術者資格を持っていれば責任ある仕事を任せてもらえますし、資格は就職後、強力なサポートによって取得することもできます。協会は経営基盤のしっかりした組織ですから、安心して就職していただきたいと思います。やりがいのある仕事を通して、一緒に社会を支えていきましょう。