現場レポート
電気は1人で灯せない。“チーム電気”で挑んだ台風19号による復旧活動【中部電気保安協会座談会・後編】
2019年10月12日に上陸した台風19号。日本各地で多大な被害が発生した中、長野県が受けたダメージは特に甚大でした。河川は氾濫し、多くの建物や家が浸水被害に。それにより電気の供給がストップ。電気が使えない…そんな状況に困惑する人々を救うため、中部電気保安協会の長野営業所の皆さんは切磋琢磨して、復旧活動に努めました。前編と後編に渡ってお送りする、“電気の復旧活動”。後編では、復旧活動で求められる“チーム力”をテーマに語っていただきました。復旧活動を指揮した早川さんが「多くの方の協力があって、電気を灯せる」と明かすように、電気はみんなの力がひとつになって灯せるもの。チームで動く上で大切なこととは?
【座談会メンバー】
・早川隆明さん
中部電気保安協会・長野営業所の所長。
・森川弘さん
調査課副長。一般家庭の電気設備の調査業務を担当。
・田平文博さん
保安課課長。自家用電気工作物の保安業務を担当。
・多田井文浩さん
特任技師として自家用電気工作物の保安業務を担当。
外部の企業とも連携して復旧活動。みんなの願いは「困っている人を助けたい」
――復旧活動をする上で、どういったチーム編成を組んでいましたか?
早川さん「中部電力さん、外部の工事店さん、そして中部電気保安協会の3つの団体の協力がないと電気の復旧は出来ないと感じました」
――チームで動く上で、大切なことは何ですか?
森川さん「災害現場は特に言われたことをしっかり守って、それを実行に移すこと。指示されたこと以外はしないと決めていました。もし勝手な行動をすると、ケガをする可能性もありますから、指示通りに動くことが大切なんです。しかし、少しでも危険を感じた際は自分の安全は自分で守るために作業を中止する勇気も必要です」
多田井さん「災害時は、官公庁など連絡を取る外部の関係者が増えていきます。そうなると、伝言がスムーズに伝わらず、情報が錯そうすることも。今回はそうならないよう、窓口を1本化して、情報伝達を単純化しました。非常に多くの方たちと作業を行いますので、何よりも結束が大切になってきます。なぜ、私たちが結束できるかと言うと、それぞれに困っている人をいち早く助けたいという思いがあるから。電気がなくて困っている人のことを考えて動くこと。それが一番大事なのです」
――復旧活動が一段落した時、慰労会など開催されましたか?
早川さん「やりたいと思っていたんですが、新型コロナウイルスのせいで、まだ開催できていないんですよね。コロナが落ち着いたら、みんなで集まって慰労会をしたいと思っています」
電気の復旧活動は、1団体だけではできない!
――印象的な出来事はありましたか?
田平さん「私は長野営業所で指示を出す立場のため、これは現場へ向かった技術者から聞いた話です。その技術者は、夜中に現場へ向かい、夜中のうちになんとか電気を復旧させたいと、必死に作業したそうです。そこでポッと、暖かな明かりが点いた。その時、歓声がうわーと上がり、本当に嬉しかったというエピソードを聞いて。私まで嬉しくなりましたね」
多田井さん「印象的だったのは、特別養護老人ホームの復旧活動です。この施設では、復旧作業に時間がかかり、なかなか電気がつかなかったため、臨時用のモバイルバッテリーを置いていったんです。後日、その老人ホームへ行ったら、モバイルバッテリーがあったので助かったと声をかけられました。わずかな電気でも、非常事態は有難いものなのだと、電気の大切さを感じました」
早川さん「ちょっとしたことでも喜んでもらえるとやりがいを感じますよね」
――今回の復旧活動を経験し、お仕事に対する考え方に変化はありましたか?
森川さん「内部・外部問わず、一緒に働く人たちとしっかり連携することの重要性を痛感しました。しっかりと連携することで、安全を確保できますし、効率的に作業を進められます。災害時は予想外のことが起こるので、だからこそ“ほうれんそう(報告・連絡・相談)”を怠らないように注力しました」
田平さん「仕事観への変化はとくにありませんが、今回の活動を通じて、1人ひとりが真摯に対応したことが、早期の復旧に繋がったのだと思います」
多田井さん「私自身、実際に被害に遭われた方と対面し、電気がなくて困っている様子をこの目で見てきました。その時、電気は大事なものであり、私たちは人の役に立つ仕事をしているんだなと感じることができました。そして、台風被害から1年経った今、感じているのは、時間が過ぎる中で災害のことを忘れつつあることです。今回の復旧活動を経験した技術者も、異動などでいなくなってきましたが、決して忘れてはいけない。そのためにも、マニュアルを作って記録を残しておかなければと思っています」
早川さん「電気の復旧作業は、中部電気保安協会だけではできません。中部電力さん、工事店さん、そして電気を使うお客さま、みんなが連携し合うことが重要なのです。台風19号の復旧活動を通して、色んな方々との協力があって、やっと電気を灯せるだと改めて感じました」
電気はあって当たり前。その当たり前が台風で奪われる怖さ
――みなさんにとって電気とはどんな存在ですか?
田平さん「電気とは無くてはならないもの。その電気は、人の手によって安定して供給されています。電気を守る人がいて、電気は使えるようになる。それを覚えていてほしいです」
森川さん「空気のような存在ですね。空気って生きていく上で、欠かせないもの。なくなると困りますが、電気も同じ。とくに長野県の冬は寒いので、暖房がないと人々は生活が成り立ちません。その暖房は電気がないと使えませんよね。だから電気は、生きていくうえで必要なもの、なんです」
多田井さん「生活に無くてはならないものです。私にとってもそう。電気の仕事がないと、お給料をもらえませんから(笑)。自分にとっても電気は無くてはならないものですね」
早川さん「日本で停電が起こることは稀ですよね。それくらい、日本の電気は安定しているんです。安定しているから、これだけ広く、素早く、パソコンやテレビなどのテクノロジーが発展しました。その当たり前が、今回の台風19号で無くなった。災害を受けたことは悲しいことですが、同時に今回の災害で電気の有難さを感じられたことは事実ではないでしょうか」
【取材協力】
1965年12月1日に、財団法人中部電気保安協会として設立し、2012年4月1日に、公益法人制度改革に対応して、一般財団法人へ移行。愛知県、岐阜県(一部を除く)、三重県(一部を除く)、静岡県(富士川以西)、長野県に48箇所の営業所を構え、電気設備の保安管理業務の委託のほか、一般家庭の電気設備の調査業務も行っている。
【執筆】