【エッセンシャルワーカー対談 第一回】 電気と医療の現場で働く両者が気づいたインフラを支える仕事の共通点とは

更新日:2021.10.04投稿日:2021.10.04

新型コロナウイルスの感染拡大により、注目を受けた「エッセンシャルワーカー」。電気の現場で働く人はもちろんのこと、医療現場で働く人もまたエッセンシャルワーカーです。この2つの現場で働く両者が出会い、対談を実施。異なる現場で働くエッセンシャルワーカーが話し合う中で見出した共通点とは、何だったのでしょうか?

対談に参加されたエッセンシャルワーカーお二人のプロフィール(あいうえお順)

【参加者 #1】

大宮エヴァグリーンクリニック 院長

東京泌尿器科クリニック上野 理事長

伊勢呂哲也さん

2009年、名古屋大学医学部医学科卒業。泌尿器外科の医師として勤務した後、2019年に大宮エヴァグリーンクリニックの院長に就任。2021年には東京泌尿器科クリニック上野を開設し理事長に就任。クリニックの承継開業やM&Aのコンサル会社も経営。2020年には著書「独立を考えたらまっさきに読む医業の承継開業」(クロスメディア・パブリッシング)を上梓する。

【参加者 #2】甲信電気

現場監督(現場代理人)

宗岡いずみさん

高校卒業後に就職。その後、結婚し3人のお子さんを育てる専業主婦に。子育てが落ち着いた後、運送会社の事務員を経て、甲信電気の事務員に転職。その後、電気工事の現場監督として数々の工事現場に携わる。役所関係の仕事が多い中、東京ヘリポートなど神奈川県以外の現場に行くことも。

こちらの記事もご参考ください事務員から現場監督へ。職種を変えてわかった、電気の現場で働く楽しさ

エッセンシャルワーカーとして、人々の生活を支えている

−−本日は「エッセンシャルワーカーとして働く」をテーマに、対談を進めたいと思っております。お2人ともよろしくお願いいたします。


 

伊勢呂哲也さん(以下、伊勢呂さん)「よろしくお願いいたします。医師の伊勢呂哲也と申し上げます。専門は泌尿器科です。勤務医として働いた後、大宮エヴァグリーンクリニックと東京泌尿器科クリニック上野の2つのクリニックを開業し、経営しています。実は、大宮エヴァグリーンクリニックは継承という形で開業しました。その時の経験を活かして継承やMAに関するコンサル会社も経営しています」

 

宗岡いずみさん(以下、宗岡さん)「はじめまして、宗岡いずみです。私は、甲信電気という電気工事を請け負う会社で、電気工事現場の監督(代理)という立場で、電気に携わっています」

 

 

−−伊勢呂さんは医師として医療の現場で奮闘され、宗岡さんは電気工事の現場監督として電気を守る仕事をされています。お2人がこの職業に就いたきっかけについて、それぞれご回答いただけますか?

 


宗岡さん「私は、たまたま現場監督になったんです。もともと勤めている甲信電気には、事務員として入社したのですが、社長から電気工事の現場を手伝ってほしいと言われ、言われるがまま現場へ行ったら、『あれ、楽しい』って。はじめは資格がないまま、助手として働きましたが、もっと現場に出たいと思って資格を取得。気づいたら、この仕事の魅力にハマっていた…という感じですね(笑)。いつも発見があるし、多くの人と接しながら業務を進める。そこで事務員よりも現場監督の方が性に合っていると思い、気づいたら本格的に、現場でヘルメットを被って働くようになったのです」


 

伊勢呂さん「私の場合は、憧れが入り口でした。中学時代に指を怪我して、病院で治療を受けることになったのですが、その時に担当いただいた先生がテキパキと的確な治療をしてくださり、その姿が当時の私には非常に魅力的に映ったんです。そこから医者になることを決意し、現在に至ります」

−−医療業界で働く伊勢呂さんも電気業界で活躍されている宗岡さんも、エッセンシャルワーカーとして人々の生活を支える立場でもあると思います。そういう意味で、今の仕事のやりがいは何でしょう。


 

伊勢呂さん「患者さんと直接、接して、治療を施して、はじめは曇っていたお顔が最終的に笑顔になった姿を拝見できた時でしょうか。私は泌尿器科の外科医ですので、日頃から泌尿器に悩みを抱える患者さんの治療をしています。


たとえば、頻尿になってしまい、睡眠中もトイレに行きたくなるので、何度も起きてしまい困っているという患者さんの場合。毎日続くと不眠にもなるし、精神的にも肉体的にも辛い思いをしてします。その方の悩みを解決するために親身に話を伺い、治療を行い、実際に治ったという声を聞いた時は『この仕事をしていて良かった』と心から思いますね」

 


宗岡さん「電気は人々の生活を支えるものです。そういう点では医療業界とも通ずるところがありますよね。そんな生活に欠かせないインフラを私が守っていると実感できた時に、やりがいを感じます。また、私自身は人と関わるのが好きなので、いろんな方と直接コミュニケーションをとり、円滑に仕事がまわったり、お礼の言葉をかけてもらえたりした時は、モチベーションがグンと高まりますね。


電気の工事現場で集中して仕事をしていると、同じ現場の同僚や周りの方から『頑張っているね』と声をかけてもらうことが多くありますがその一言を聞くと、この仕事をやっていてよかったなと改めて感じます」

伊勢呂さん「人間関係って、本当に大事ですよね。私はクリニックの医師であり、クリニックの経営者でもあります。ですから、患者さんも大事にしていますが、つねにスタッフが働きやすく、仕事に対してポジティブに取り組んでもらえる職場作りにも力を注いています。クリニックを維持するためには一定の売り上げも必要ですが、スタッフが楽しんで仕事をしている姿を見る方が嬉しいですし、私の頑張る動力にもなっているんですよね」

医療も電気もあって当たり前と思われている。そこには、“当たり前”を支えている人がいる。

−−働く上で気をつけていることはありますか?

 

宗岡さん「電気は手順を誤ると、死にもつながる危険な仕事でもあります。ですから、現場監督として、作業員のみんなが安全に業務を終えられるように、なおかつみんなが楽しく仕事に取り組めるように、しっかりとコミュニケーションを取り、注意を促したり、指示を出したりするようにしています。電気の仕事は技術職でもありますが、コミュニケーションが大事ですし、もっと人間臭い部分も多いのです。でも、私自身はそういうところが好きですね」


 

−−伊勢呂さんも医師として死に向き合う立場だと思います。


 

伊勢呂さん「そうですね。今は泌尿器科の外科医ですので、死に直面することはほとんどありませんが、かつては外科医としてガンを患う患者さん、とくに重症患者さんを担当していたので、日々、死と隣り合わせでした。その当時は、患者さんの命をお預かりする立場として強く責任を感じていましたし、どんな場面でも決して妥協しまいと、1秒1秒、患者さんと真摯に向き合っていました。現在は患者さんが回復したときの未来を一緒に考え、毎日を快適に過ごせるようにお手伝いしたいと思っています」

−−医療と電気。2つの世界の共通点はなんだと思いますか?


 

宗岡さん「人の生活を支える立場でありつつ、あって当たり前とも思われていることが共通点ではないでしょうか。私自身も病院はあって当たり前だと思っていますし、この対談で改めて、医療の方に生活の一部分を支えていただいているんだと再認識しました」

 


伊勢呂さん「同感です。以前、経営しているクリニックの電気が止まったことがありました。その間、患者さんの応対が一切できず、困り果ててしまったんです…。診察ももちろん、医療機器は電気を使用するものも多くありますので止まってしまうと、患者さんを助けることができなくなってしまう。その時、一刻も早く復旧してほしいと心から願いましたし、電気の大切さを実感しました。

 

藁にもすがる思いで電力会社に電話をしたら、遅い時間帯だったにもかかわらず、すぐに技術者の方が駆けつけてくださり、無事、復旧しました。一目散に駆けつけてくれたのは、本当に、本当にありがたかった。そんな時、電気はあって当たり前ではなく、支えてくれる人がいるからこそ、使えるんだなと実感しました」

電気の仕事で得られる達成感はこの上ない。医療の仕事は想像を超える出来事に出会える。

−−昨年より、世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルスの感染拡大。コロナ禍によって、働く環境、ライフスタイル、価値観など、業界、老若男女問わず、多くの人に多大な影響を与えていますが、お二人の仕事に変化はありましたか。


 

宗岡さん「私が勤める甲信電気では、影響はほとんどありませんでした。電気をはじめ、ガス水道は生活を送る上で必要不可欠なものです。そのため、コロナで仕事の環境が変化することはありませんし、人々の生活の基盤を支えるお仕事なので、今後も大きな影響を受けることはないのかなと思います」


 

伊勢呂さん「うらやましいです。 医療はインフラの一部ではあるものの、コロナの影響を直に受けてしまいました。いっときはコロナの流行で病院へ行くことを躊躇される患者さんが増え、クリニックの存続が怪しかった時も…。昨年、流行が始まった頃はまだ情報が少なく、未知のウイルスでしたし、人混みを避けたい、外出そのものが怖い、という方の気持ちもわかりますので、無理強いはできませんから…。今は復調の兆しを見せています」

 

−−ここまでお二人にお話いただきましたが、お互いの業界について、どのような感想をお持ちになりましたか。



伊勢呂さん「大きい組織に属していた時はほとんど実感がありませんでしたが、クリニックを経営していると、電気の大切さを感じることが増えますね。クリニックを支えているのも電気ですから。有事に備えられている電気は、多くの人々の手によって私たちの手元に届くもの。それを毎日考えつつ、大事に使わせていただきたいと思いました」


 

宗岡さん「人とのつながり、医療の現場を支える電気…お話をする中で、医療と電気は関係するものなのだと感じました」

−−ありがとうございました。それでは最後に、若い読者に向けて、この仕事の楽しさをアピールしてください!


 

宗岡さん電気のお仕事は、決して、目立つものではありません。しかし、たとえ華やかでなくても、家族、友達、自分自身と向き合うときなど、一人ひとりの生活を照らす、本当に素晴らしいお仕事です。こんなにやりがいがあり、多くの方から感謝をされるお仕事はなかなかないんじゃないでしょうか。電気の仕事にこそ、もっと光が当たって欲しいですね。

 


また、この仕事では、安全かつスムーズに業務を行うために、コミュニケーションが何よりも大切です。きちんとコミュニケーションが取れると、チームもまとまりますし、それが信頼に繋がり、多くの方から感謝の言葉をいただける。それが仕事の醍醐味です。人々は助け合って生きています。それが働く意欲に変わりますし、達成感にもつながっていくんです。


 

私自身、『女性だからできない』と思われたくなかったので、資格を取得したり、勉強したり、必死に動いてきました。私は美容やおしゃれが好きという自分のポリシーを曲げず、実力を上げることで、見た目で判断されなくなりました。初めての方でも、女性でも、誰もが長きにわたって活躍できる環境があります。ぜひ電気の世界に飛び込んでみませんか」


 

伊勢呂さん「私は人と関わることが好きなので、手術や診療を通して、患者さんと接し、喜んでもらえるこの仕事が心から好きです。医療現場で働く魅力を言葉で伝えることは本当に難しいのですが、その人の人生の一部を支える仕事ですし、さまざまな出会いがあり、そこにはドラマがある。


もちろん、命を預かる立場ですからプレッシャーもありますが、それを吹き飛ばすくらいの大きな歓びを得ることができる、やりがいのあるお仕事です。人と接すること、人とお話をすること、その人を元気にしたいと思える方には向いているのではないでしょうか」





<取材・執筆>

野田綾子

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