現場インタビュー
入社5年目。社会の基盤を支えるこの仕事を誇りに日々、前進を続ける女性技術者が願う「これからの電気と、私と。」
2021年8月24日、東京パラリンピックが開催されました。その幕開けを彩る華やかな開会式で、パラ楽団によって演奏が奏でられるなか、リレー形式で次々に掲揚台へと運ばれていくパラリンピック旗。掲揚台までまもなくという終盤に差し掛かり、パラリンピアンたちから旗を託されたのは、8人のエッセンシャルワーカーでした。その1人として先頭で旗を運ぶ大役を担ったのが、東京電力パワーグリッドに所属する大峠志帆さんです。全世界が注目する舞台で、会社のユニフォームを身にまとい、堂々たる姿を見せてくださった大峠さんに、開会式出演のエピソードや現在の仕事についてお話を伺いました。
目次
直前までベールに包まれていた開会式。ドキドキの2ヵ月間を過ごす
――東京2020パラリンピック開会式という世界が注目する舞台で、大峠さんは見事に大役を果たされました。出演のオファーを受けたときは、どのようなお気持ちでしたか?
「直属の上司に、『支社長から話があるらしいよ』と言われ、見当もつかないまま支社長のところへ。そこで予想もしていなかった開会式出演の話を聞いて、とにかく驚きました。
はじめのうちは実感が湧きませんでしたが、時間とともに徐々に冷静になり、本当に私でいいのかなという気持ちと、緊張感が高まっていったことを覚えています。支社長から声をかけられたのが6月。そこから8月に開幕するパラリンピックの2週間前まで、運営側からほとんど情報を明かされていなかったため、実際に何をするのだろうと、いろいろ想像していました」
――実際にパラリンピック旗を持って歩かれた瞬間はどんなお気持ちでしたか。
「パラリンピック旗を運んでいる私たちの周りで、楽しんで参加している選手たちの姿が見えました。拍手や声援が飛び交う、アットホームで温かい雰囲気のなか、本当に素敵な式だなと実感しながら、しっかりと任された大役を務めることができたと思っています。
実は、本番よりもリハーサルの時のほうがピリッとした緊迫感がありました。リハーサル当日は、私を含め8人のエッセンシャルワーカーが集まったのですが、最初は誰もユニフォームを着ていないため職業もわかりませんでしたし、声をかけることもできませんでした。
しかし、リハーサルでユニフォームに着替え、お互いの職業がわかると、エッセンシャルワーカー同士で話が盛り上がり、徐々に緊張もほぐれていったのです。その時に、『電気の仕事って、まさにエッセンシャルワーカーだよね』と声をかけていただき、改めて自分の仕事と会社を誇りに感じ、今まで先輩たちが作り上げてきたものは、本当に偉大だなと実感しました。パラリンピック開会式の舞台に立つというなかなか経験できない機会をいただいていることに感謝の念が湧くと同時に、社会のインフラを担う責任のある仕事をしているのだと、身が引き締まりました」
“社会のインフラを支える”という、使命感のある仕事への憧れた
――現在、大峠さんはどのようなお仕事をされているのでしょうか。
「私が所属する東京電力パワーグリッド株式会社は送配電事業の会社で、みなさんのもとへ電気を届けるという使命を持っています。私は2021年10月から、発電された電気を地中から届けるために使用するケーブルの冷却設備を新設したり、リプレースしたりする送変電建設センターの冷却設備整備グループに在籍しています。
大容量の電気を流す超高圧系のケーブルは、熱を持ってしまうと多くの電気を流せなくなります。そのため、水冷管等でケーブルを冷却し、できるだけ多くの電流を流せるように冷却設備の整備をしているのが私たちの部署です。以前、所属していた上野支社では、支社が保有する設備を保守する立場として設備管理や点検をしていましたが、今は冷却設備がある場所であれば、神奈川や千葉など、遠方に出向いて工事をしますし、新しく設置する設備の基礎設計も担当しています」
――就職先として電気業界を選ばれたのは、何かきっかけとなるできごとがあったからでしょうか。
「大学時代は土木を専攻していましたが、土木を選んだ理由は社会で非常に重要な役割を担うインフラ関係の仕事に憧れがあったから。就職活動では土木関係の建設会社も良いなと検討していたのですが、東京電力にも土木部門がありました。そこで、実際に話を聞いてみようと就職説明会に参加したところ、送電線を地下に入れるための洞道と呼ばれるトンネルを掘るなど、電気専門でなくとも、幅広く活躍できる場所があるとわかりました。
その後、インターンにも参加しました。自社で設備を持ち、それを保守・管理して社会のインフラを支えている先輩たちのまっすぐな姿を見て、『この会社で働きたい』という思いが膨らんでいったのです」
壁にぶつかっても、一歩一歩、前進すればいつか道が開く
――普段、仕事のなかで心がけていることはありますか。
「専攻が土木でしたし、電気に関しては一から勉強するつもりで入社しましたので、得意な仕事も、苦手な仕事も、初めて見た雰囲気で物事を判断せず、とりあえずできる限りやってみることを心がけています。大事にしているのは、いつでもベストを尽くすということです」
――素晴らしいですね。その心がけがあるためか、大峠さんの表情は明るく、堂々と輝いています。ちなみに、今までの仕事のなかで一番印象に残っていることはなんでしょう。
「上野支社にいた時に設備補修業務で、古い型式の送電線の改修の計画を立てたことです。その計画とは、同じ型式がないため、新しいものにリプレースするという内容でした。入社から2年目ほど経過した時に任された仕事だったのですが、何十年も先を見据えつつ、リスクを考慮した計画をつくるのは本当に大変で…。最初は何も分からなくて、正直投げ出したい!と思うほど。
それでも、多岐にわたる検討事項を一つひとつ整理して進めていくと徐々に土台となる方針が固まり、上司の承認を得るところまでたどり着くことができたのです。今までの仕事の中で、一番達成感を感じた瞬間でした。思い通りにいかないし、膨大な時間がかかりましたが、コツコツと少しずつでも進めていけば、いつかはちゃんと形になる。それを実感できたのは、この時が初めてでしたし、新しい道を切り開いた気持ちになりましたね」
――入社から数年は経験も浅く、誰もが困難にぶつかると思います。それを大峠さんはご自身の努力で乗り越えられたのですね。
「他にも、楽しめたという点で印象に残っていることについてお話しさせてください。
私たちの部門は地中送電の送電線の保守なので、お客様と一対一で関わる機会はほとんどありません。
しかし、とある夏に、外販活動の一貫として、夏休み中の小学生を変電所の設備見学に招待するという活動を行ったのです。
場所は、地中送電では国内で一番電圧階級の高いケーブルの発着地点になっている変電所。どうすれば小学生に興味を示してもらえるのか、楽しんでもらえるか、あれこれとアイデアを出し合いました。実際の見学会は、外から見えない電気が流れている部分に検電器をあてて電気を測定してもらったり、小学生から鋭い質問をされて、今どきの小学生はすごいなあと思える体験をしたり。ちょっと特殊な仕事でしたが、私自身も大いに楽しむことができました」
周囲からの期待の声を、自らの原動力に変えて
――入社当初と比べて、仕事への取り組み方や仕事への向き合い方は変化しましたか。
「東京2020パラリンピック開会式で、他のエッセンシャルワーカーと話したことも大きく影響しますが、私が望んで入社した電力会社は、こんなにもすごいのだということをひしひしと感じています。普段は何気なく仕事をしているので気づかないことも多くありますが、期待の声を耳にしたことで、今まで以上に、もっと会社を、社会を良くしていきたいと思うように。
また、新しいことにも、とりあえずやってみよう!というチャレンジ精神が芽生え、興味あることにはチャレンジしたいというポジティブマインドが根付くようになりました」
――すでに非常にポジティブなパワーを感じますが、普段の仕事のモチベーションになっていることはありますか?
「同期や年の近い先輩・後輩との会話です。社内には技術営業をはじめ、私とはまったく異なる仕事に従事する人も多く在籍しています。部門外の人と話をする機会が多いのですが、そこでどんな信念を持って仕事をしているのか、どんな目標を掲げているのかを聞くと、私も負けてられないと思います。
先輩たちには、保守の部門に長く在籍しているので保守に関しての知識が深い人、工事に詳しい人、異動でまったく違う部門に行って新規事業に携わっている人など、知識も経験も多く、話を聞いていると多くの学びや気づきがあります。そこで、何をやるにしても、やっぱり一生懸命、自分の信念を胸に頑張ろう、全力で目の前のことをやろうと強く感じることができるのです」
電気業界の新しい可能性を広げたい
――入社前と入社5年目の現在、仕事や業界について、ギャップを感じたことがあれば教えてください。
「入社前は規模が大きく、歴史も長い企業ですので、基礎がすでにでき上がっていて、新しいことへ挑戦できる環境はそんなにないのかなと思っていました。しかし実際に中へ入ってみると、先輩たちが築き上げてきた確固たる基礎はあるものの、そこで完結しないベンチャー気質も持ち合わせていて。新しいものを作ることへの意欲、今ある設備を長く、効率的に活用していくための技術面の課題、飽きがこないくらい、良い変化や刺激がたくさんあることに気づきました。
また、新規事業の考え方が社内研修でも学べますし、電気に囚われすぎず、電気を起点にさまざまな展開、サービスを考えていこうという気風がある。そういう意味で、良いギャップがありましたね」
――そうした環境がある中、大峠さんは今後、どのようなことにチャレンジされたいですか?
「将来的には海外新規事業など、外に目を向けた取り組みにチャレンジしていきたいと考えています。そう考えるようになったきっかけは、先述した社内研修です。研修内で海外のスタートアップ企業の方と会話し、国内とは違う、より多くの情報を得ることができましたし、今までにはない気づきを得ることができ、心がワクワクしました。
英語がもっと理解できるようになれば、海外の論文から仕事に活かせる仕組みを探したり、逆に売り込んでいったり、より広い視野で仕事に取り組めるようになる。その目標を胸に、会社の制度を利用して、毎日少しずつ英会話のスキルを磨いています」
――電気業界(とくに現場)では、まだまだ女性が少ないように思われます。女性活躍を推進するために、今後どのような取り組みが必要だと思われますか。
「部門にもよりますが、私の職場には女性はほとんどいません。年が近い女性がいないと、ちょっとした相談ごともできませんし、不安に思ってしまう人も多いはず。
そうした不安を払拭するために、女性向けのインターンを募って、実際に働いているところを見てもらったり、女性社員と会話したりできる機会を積極的に設けています。入社時に気にされるのは、会社や働いている人たちの雰囲気だと思いますので、気さくな先輩がいること、安心して働けるとことがしっかりと伝わるよう、これからも根気よく取り組んでいきたいですね」
――責任感が強く、パワーに満ちている大峠さんですが、電気業界の未来を背負う若手社員として、電気及び電気業界に関して現在、課題に感じていることはありますか。
「そうですね、私もまだ知らないことが多くありますが、電気以外で培ってきた会社の強みを活かして、可能性を広げていきたいと思っています。社外や職務外の人とお話しすると、外に向けたアプローチ、マーケティング視点のビジネス戦略など、参考になることも多くあります。ですから、今後は業界外の交流を活発にすることで、思いがけないところにあるヒントやアイデアをどんどん拾っていきたいですね。そうすることで、電気業界にも新たな風を吹き込むことができるのではないでしょうか」やりがいを感じ、成長を実感できる電気の仕事
――電気業界で働く魅力は何だと思いますか。
「使命感といいますか、本当に社会の役に立っていることを実感できるこの仕事に大きな魅力を感じています。地震や台風などの緊急時は、対応に追われてしまいますが、終わった後に、ツイッターなどで、『東京電力が来て、直してくれた。ありがとう!!』と書かれている投稿を目にすると、嬉しいし、疲れも一気に吹っ飛んじゃいますね。
もう一つは、先ほどお話した通り、いろんな提案ができること。みなさんがイメージする大きい電力会社というよりは、自分の提案で会社の新しい事業を作ったりすることもできる、いろんなことに挑戦している会社です。今、そして今後を想像し、私は楽しみながら日々働いています」
――大峠さんにとって、電気とはどのような存在でしょうか。
「みなさんと同じように生活に必要不可欠なものには変わりありませんが、私は仕事にしたことによって、それだけの存在ではなくなりました。電気は土木の建造物と異なり、目に見えないものです。
そのため、入社当初は難しいなあという、苦手意識がありました。 しかし、先輩をはじめ多くの人に支えられ、今はそれなりに知識を身につけることができたと思っています。なんでもやってみればできる。そう思えるきっかけをくれたのが電気。ですから、電気は私自身を成長させてくれるものだと思っています」
プロフィール
大峠 志帆
東京電力パワーグリッド株式会社に勤務。
岩手県出身、2017年度に入社。「社会インフラを支える仕事がしたい」という思いを胸に、地中送電線の保守業務に4年間従事。現在は、地中送電線の冷却設備を設計・建設する送変電建設センター冷却設備整備グループに所属。東京2020パラリンピック競技大会の開会式では、エッセンシャルワーカーのひとりとして大会旗を運ぶという大役を務めた。