「灯りをともす人を、“光のあたる人”へ」電気工事士が輝く環境づくりに尽力する那覇電協の棚原さやかさんへインタビュー!

更新日:2024.10.06投稿日:2024.10.07

現場の仕事や管理の仕事を経て、現在は那覇電気工事業協同組合で人材不足や賃金アップ、電気工事士の地位向上など、さまざまな課題解決に取り組んでいる棚原さやかさん。
本インタビューでは、電気工事業に長く携わる中で気づいた業界とお仕事の魅力を語っていただきました。

電気工事歴は27年。「つねに身近だった」電気のお仕事

――棚原さんのご経歴についてお聞かせいただけますか。

はじめに務めたのは父が営む従業員が2名ほどの小さな電気工事店で、10年近く、現場の仕事をしました。しかし、経営不振に陥り廃業へ…。その後、施工管理会社で10年ほど現場代理人を経験しました。そこでのご縁があって、現在は那覇電気工事業協同組合(以下、那覇電協)へ入組、現在に至ります。電気工事歴でいうと、19歳からなので今年で27年ですね。

那覇電協へ入組するきっかけとなったのは、20代前半の時に参加した電気工事技能競技大会です。当時は女性技術者でこのような大会にエントリーすることが珍しいとされていた時代でしたが、沖縄県でも優勝し、さらには九州大会でも優勝を獲得したことで、業界内で広く、名前を覚えていただくことができたんです。

電気工事技能競技大会
電気工事技能競技大会2
競技大会で優勝を飾った時

当時、父の会社が大変だった時期に助けていただいたこともあり、この業界はお互いに協力したり、支え合ったり、“助け合い”という考えが根付いているのだと感じました。そんな暖かく、働きやすい環境があったからこそ、同じ業界でここまで長く勤めることができたのだと思っています。

さまざまな形で電気業界に携わってきた中で、現在、さらに深刻な課題になっているのが人材不足です。業界全体において人材不足の改善と若手の育成は急務ですから、求人募集や業界のPR強化を目的として、昨年、公式のSNSアカウントを開設。新たな方法で解決の糸口がみつかれば…と、若年層が利用しているSNSを中心に情報発信を行う高卒ウェルカムプロジェクトを立ち上げました。

高卒ウェルカムプロジェクト

――棚原さんはいつ頃から電気業界へ興味をもちはじめたのでしょうか。

小学生の頃から、両親が現場で仕事をしている隣で掃除などのお手伝いをするようになって、かっこよく機敏に働く両親の姿を間近で見てきました。小学校の文集にも、「電気屋の女社長になる!」と書くくらい、私の中では一番身近であり、興味のある仕事だったんです。いずれは会社を継ぎたいと思い、父の会社に入りましたが、経営のノウハウがなく、結果として会社を締めることに。悔しい思いをしましたが、今はその経験を活かし、組合員の皆さまが安心・安全に、継続して働ける環境づくりに取り組んでいます。

物心ついたときから電気業界へ入ることしか考えていなかった

――棚原さんは県立高校の普通科に進学されていますよね。

私自身は工業高校への入学を志望していましたが、母に「高校は普通科へ通って、それでも気持ちが動かなければこの道に進めばいい」と言われ、高校は普通科へ進学しました。今考えると、両親なりの配慮があったのかもしれません。それでも変わらず、興味があるのは電気業界だったので、高校2年生の時に、中部電協の組合が実施していた講習会へ通って資格を取得。改めて決心が固まりました。

――幼い頃から一貫して、電気にたずさわるお仕事がしたいと思われていたんですね。

ずっと両親の背中を見ながら育ったことも影響があるのかもしれませんが、現場で仕事をしていて、最後にパッと明るく電気がついた時の、あの何とも言えない瞬間は子どものながらに胸がうたれるものがありました。そういう経験の積み重ねと両親への想いが、この業界に長く携わることになった背景にあるのかもしれません。

――他の業界、職業も経験してみたいなど、27年間のなかで、気持ちは一切ブレることはありませんでしたか?

棚原さん

逆にいうと、他に何ができるんだろう?という感じで。私の場合、同じ電気業界でも、はじめの10年間は職人として、10年間は現場代理人として、そして今は現場で働く皆さんをサポートするなど、異なる職種を経験してきました。

職人のときは、ものづくりに直接関われることにやりがいを感じました。実務だけではなく、大工さんとやりとりしたり、設備屋さんと協力したりするのですが、男性が多いですし、初めて現場に入った時は、なかなか馴染むことができなかったんです。それでも毎日、挨拶を欠かさず、そこにいる職人さんたちへ積極的に話しかけてきたことで、少しずつ雰囲気が変わって、逆に声をかけてくれるようになったんです。少しずつ打ち解け、チームワークが強くなって、みんなが一丸となって一つのものをつくる。段階を踏みながら自分を認めてもらって、最終的に完成したときの感動は、このお仕事でしか味わえない何かがありますよ。

施工管理のときは、女性の管理者であるためか、頼っていただけないこともありました。しかし、現場の経験を積みながら、「こうしたら効率が上がるのではないでしょうか」とか、できないと思われていたことも、「このやり方ならできますよね」と諦めずに提案することで、少しずつ頼りにされるように。まっすぐな気持ちで現場と職人さんと向き合うことで、相手にも熱意が伝わり、「また、さやかと一緒に現場したいさー」と言ってくれるまでになりました。こうした積み重ねが、次の仕事のモチベーションにもつながっていったんです。

それぞれのお仕事にやりがいがありますし、段階的につながりを持つことで、達成感や成功体験など、かけがえのないものが得られたのだと思います。

――現職で取り組んでらっしゃることについてお伺いできますか?

現在のお仕事はどちらかというと“裏方”、サポートという立ち位置です。組合員さんに加入によるメリットを感じていただけるように、日々、試行錯誤しています。最近では、働き方改革を推進するために助成金を使って、ケーブルの皮を剥く時に使う廃棄電線ストリッピングマシンを4台購入し、無料で貸し出しました。不要になった電線は売ることができますので、その売上で別の工具を購入したり、廃材の処分費用にしたりすることができます。廃材を捨てるにもお金がかかりますので、この取り組みが助かっているという声も多くいただいております。

また、それ以外にも新たな取り組みをどんどん進めていて、先日はパーソナルカラーの印象アップセミナーを開催しました。お客様と初めてお会いする場合、印象って結構大事だったりしますよね。プライベートでも仕事でも役立つ考え、この企画を考えたんです。その他に無料で参加できるコーチングセミナーなど、仕事に必ず役立つさまざまなセミナーを企画するのはとても楽しいですし、やりがいになっています。

必要不可欠な電気。電気業界には可能性しかないからこそ、地位向上へ全力を注ぐ

――電気業界で長く働いた経験からどんな気づきを得られましたか

今はいろんなものがシステム化され、各業界で人員削減のための効率化ツールが数多く提供されていますよね。しかし、電気工事業界はまだまだ、人がいなければ進めることができないものがほとんど。繊細な作業は人の手だからできることですし、今後も需要がなくなることはありません。だからこそ、電工単価を上げるべきですし、業界全体で真剣に取り組んでいかなくてはならないと考えています。

今、AIをはじめ、新たな技術が次々と誕生していますが、結局のところ、電気がないと何もできませんよね。とくに近年は自然災害が多く、台風による停電によって、改めて電気のある生活のありがたさを痛感された方も多いのではないでしょうか。その重大なインフラを守っていくというのは、本当にやりがいが大きい仕事です。電気工事、通信、管理、電気業界の中でも幅広い分野がありますし、職種を選ぶことができるのも魅力だと思います。

自分の仕事が世の中のためになる。それはやりがいになるし、生きがいにもなる。目の前で「ありがとう」と言ってもらえる。必要不可欠な存在になる。自分を認めてもらえる。こんなに自分の存在意義を体感できるお仕事って、なかなかないんじゃないかなと思います。いろんな工程やトラブルなどを経験して、最終的に灯りがついた時に、お客様から感謝の言葉をいただいた時、次も頑張ろうって思えるんです。経験を積むだけでなく、社会人としても、人としても成長できる環境があるのは電気業界ならではかと思います。

優秀施工者国土交通大臣賞で表彰
優秀施工者国土交通大臣賞で表彰されたとき

――電気業界の新3K「キレイ・キラキラ・カッコイイ」を提唱している棚原さん。今後、どのようなことにチャレンジしていきたいですか?

男性社会というイメージが強いかもしれませんが、分電盤を組んだり、照明器具を取り付けたり、細やかな作業もあり、女性が活躍するシーンもたくさんあるんです。単なる分業ではなく、力が必要な作業は男性に任せるなどして、みんながチームとして協力し合うことが重要なんです。誰もが自分らしく、キラキラと輝ける場所がある。そんな環境づくりに取り組んでいきたいですね。

目標は、全国の電気工事技能競技大会の女性の部で沖縄県から代表者が出ること。沖縄からそうした優秀な技術者が誕生するような環境を作りたい。そうやって、業界に興味を持っていただくきっかけを作ったり、頑張る技術者の背中を後押ししたりできればと考えています。

――ありがとうございました。最後にWM読者へメッセージをお願いします。

電気工事は、異業種からでもチャレンジできる仕事です。
私のまわりですが、電気工事会社の事務員として入社した女性職員が、CADに興味を持って自ら勉強をして、その後、現場に行きたくなって代理人になった、という方もいます。そういう意味では、その人の希望を聞いて、受け入れる環境がある業界ですし、どんな方でも業界に入れるようにサポートするのが私の役目だと思っています。

現場のお仕事だけではありませんし、キャリアチェンジも可能です。ぜひ、広い視野で電気業界へ興味を持っていただければ幸いです。

プロフィール

棚原さやか(たなはら・さやか)

1978年、沖縄市出身。県立高校の普通科に通いながら、2年生の時に第二種電気工事士の資格を取得。高校卒業後は具志川職業能力開発校に進学。19歳で両親が営む電気工事店に入社。29歳で公共事業を請け負う会社へ転職。40歳を期に那覇電気工事業協同組合へ入組。42歳から現職。保有資格は第一種電気工事士、1級電気・1級管・1級土木施工管理技士。

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