現場レポート
電気保安の未来を協議するため、いざバルセロナへ…!国際電気保安連盟(FISUEL)技術発表会と国際銅協会(ICA)へのヨーロッパ訪問記
2024年10月中旬、スペインはバルセロナで国際電気保安連盟(以下、FISUEL)の技術発表会が開催され、昨年に引き続き、関西電気保安協会と九州電気保安協会からそれぞれ1名ずつが参加。また、国際銅協会(以下、ICA)ヨーロッパにも訪問し、意見交換を行いました。
本記事では、参加した2名へ参加によって知り得たことや率直な感想をインタビューしました。
目次
今回のインタビューに参加いただいた2名
関西電気保安協会 岸田健太さん
ソリューショングループマネージャー
1986年2月生まれ。徳島県出身。2010年に関西電気保安協会に入社後、自家用電気工作物の保安点検業務に従事し、現在は本店事業本部保安部ソリューショングループに所属。監視装置を活用した点検の品質向上やお客さまの問題解決といった様々な業務に携わっております。
九州電気保安協会 紙 浩三朗さん
人財労務部研修グループ
1992年4月生まれ、佐賀県出身。地元の商業高校を卒業し製造業へ就職後、九州電気保安協会へ転職し、熊本支部に配属。保安管理業務に従事し、2022年より本部に異動となり、現在は研修グループとして職員の安全力・技術力向上のための研修に関する業務を実施しています。
国際電気保安連盟(FISUEL)とは?ヨーロッパ遠征の目的
国際電気保安連盟(FISUEL)とは、2002 年にパリで設立され、国際レベルで電気の利用安全を推進する民間の国際機関で、現在 12か国の中から21の電気安全関係組織で構成されています。電気保安協会全国連絡会は2006年に加盟しています。今年度は、スペインのバルセロナで国際電気保安連盟(FISUEL)の理事会と技術発表会が開催され、日本の電気保安に関する技術発表と各国の取組み関する情報交換を行いました。
また、今回の訪問では、ベルギーのブリュッセルに本拠地をおく、国際銅協会ヨーロッパ(ICA)へ訪れ、ICAの銅産業を起点とした電気産業への取組みと電気保安への活動展開の情報交換も行っています。
ブリュッセルに本拠を置く国際銅協会(ICA)ヨーロッパは、ヨーロッパの銅産業の主要な擁護団体として、政策、業界、科学の専門家チームを通じて、EU の強靭で気候中立なヨーロッパという目標の達成に不可欠な材料として銅を推進し、EU の政策によってヨーロッパの将来のニーズに応える銅の持続可能な生産が確実に実現されるよう努めている団体です。
国際電気保安連盟(FISUEL)への参加で気付いた各国の課題と取り組み
――FISUELの技術発表会では、どのような学びや気づきがありましたか。
紙さん「FISUELでは、各国の住宅用電気設備の統計や電気事故発生の発表及び情報交換を行いました。フランスでは、2008年以前に建設された約3,100 万戸の住宅のうち、15年以上経過した電気設備83%に少なくとも1つの電気異常があり、住宅火災の20~35%は電気が原因です。またイギリスでは、太陽電池の普及とともに太陽電池が原因の火災が増えており、住宅での各種電気説品のうち太陽電池がもっとも火災リスクが高いという分析結果の紹介がありました。
この課題を解決するために、住宅での太陽電池による事故防止を目的とした、双方向性ブレーカーを開発したそうです。このように、国によって課題が異なり、各々、課題解決に向けた技術開発が精力的に行われていることがわかりました」
岸田さん「今回の参加国の中では、日本のように法律で、管理者、教育、罰則等を定めているのは少数であり、あらためて日本の電気設備検査制度は充実していることが認識できました。このことは、FISUELのセーフティーバロメーター(各国の電気安全レベルのデータベース)からも日本が高い水準であることが読み取れました。発表会の中で紹介されていた新しい技術としては、IEC関係の動向として電気火災防止に効果が期待できるアーク遮断器について、日本でも導入が進めば電気火災の防止に役立てるのではと感じました。
また、私の発表テーマは、『高圧設備の絶縁監視』という少しコアなテーマだったので、電気設備の技術や保守運用の異なる海外の方向けにどこまで上手く伝わるか不安でしたが、検出センサーの内容や費用について質問を受けるなど、絶縁監視の技術について参加者の関心度が高いことがわかりました」
紙さん「また、韓国では、太陽電池発電に併設されることが多い蓄電所(ESS)が増加していますが、併せて事故も増加傾向にあるため、全国のESSの遠隔集中監視や検査を強化しているとのことでした。
近年は、全世界的にEVが急速に普及していますが、韓国ではEV充電中の火災が連続的に発生し、社会問題になっています。今年8月に仁川で発生したEVの充電中の事故は大規模火災となりましたが、充電設備側の問題か、EV側の問題かいまだに原因が判明していません。日本国内でも今後、EV利用者が増えていくことが想定されますので、安全に利用できるように設備点検に十分な配慮が必要だと感じました」
※2019年に韓国政府が公表した事故調査委員会の報告書によれば、23件の火災事故の発生に伴い、Samsung SDI社とLG化学のESS設備について一時的に出荷停止と運用中のESSの1,499ケ所の運用停止命令を出していたが、規制基準の強化などが行われています」
国際銅協会ヨーロッパ(ICA)への参加で気付いた各国の課題と取り組み
――ベルギーで開催されたICAでは、どのような情報交換をされたのでしょう。
岸田さん「欧州では定期的に検査している国はあるものの、太陽光発電設備の増加や建物の老朽化が原因の電気事故が増加傾向にあるとのことでした。しかし、電気火災が起きても、消防が迅速に対応するため、予防の重要性については日本と認識が異なり低いように感じました。
なお、スペインのように住宅部分の検査が義務化されていない国もありますが、長期的に考えると、安心安全な暮らしを守るためにはやはり、定期的な点検や検査が欠かせません。そのことを改めて痛感しました」
紙さん「欧州全域では、設置から30年以上経過する老朽化した電気設備が1億3,200万戸あります。なんとこれは欧州の電気設備の約半分。今後は、ゼロエミッション建築物(クリーンなヒートポンプ空調、分散型電源、EV、エネルギー貯蔵)に向けた大規模
な改修の前提条件として、電気の安全性を確保していくことが発表されていました。
欧州は日本と比較して電気を起因とした火災事故が27倍も発生しています。日本の場合、4年に一度、電気の保安・点検が義務づけられていますが、欧州では、住宅の電気保安検査は極めて限られていると言います。保安と点検を定期的に行っていれば、火災事故を抑制できているのだと感じました。」
――最後にメッセージをお願いします。
岸田さん「海外の技術者との交流はもちろんですが、日本からの参加メンバーの方とも毎日顔を突き合わせて交流ができたことは、大変有意義でした。海外では日本とは電気の法制度や技術的な面で異なる部分も多々ありますが、日本の優れた電気保安技術は、世界でも通用するものだと改めて感じました。
今後、この技術を世界へPRするためにも国際会議の場でプレゼンテーションやパネルディスカッションへ積極的に参加することが重要だと感じました。今回の海外出張を通して経験したことを自分自身の中で消化するにとどめず、次の世代にも繋げていきたいと思います。」
紙さん「初めての海外出張を経験し、日本との文化や風土の違いを直接感じ、自分自身の見識を広めることができたと思います。また、国際会議という場で無事に発表を終えることができ、大きな自信になりました。
欧州やアフリカ各国との意見交換や懇親会を行ったことで、国による制度や設計の違いについて理解が深まりましたし、国によって電気保安に関する法的規制が無いところも多く、電気設備の健全性の維持に関する課題が山積していることにも気づきました。今回の海外出張を通して学んだことを糧にし、次の世代が電気について理解を深める機会を提供していきたいです」