現場インタビュー, 電気業界の仕事とは?
業界をよりよくしたい!〜株式会社ビトウで代表を務める女性技術者・尾藤紗希さんが伝えたいこと

未経験から電気工事の世界に足を踏み入れ、その魅力とやりがいにどんどんハマっていったと語るのは、株式会社ビトウ代表取締役・尾藤紗希さん。女性、特に働くママさんがバリバリと活躍できる会社にしたいと2024年4月に起業しました。「一度決めたことは貫き通す」。公式サイトに掲げられた「初志貫徹」という言葉を体現し、自身も子育てをしながら現場で活躍する尾藤さんにインタビューしました。
目次
「DIYが好き」。まったくの未経験から電気業界へ
――株式会社ビトウ様の事業について教えてください。
工場や店舗、住宅、オフィスビルまで、電気設備に関わる工事を一括して行う電気工事業を営んでおります。
――尾藤さまご自身はどのようなきっかけで電気業界に興味を持ったのでしょうか。
両親や親戚が電気業界で働いていたわけではありませんし、その前は飲食店に勤めていましたので、完全に“ゼロ”の状態で電気業界に飛び込んだんです。
もともとDIYでいろんなものを作ることが好きだったこともありますが、「部屋のエアコンの取り付け工事が自分でできたらいいな」と思ったことが一番の動機です。私には子どもが3人いて、引っ越しが多かったのですが、その度にエアコンを取り付けたり外したりする必要があり、手間もコストもかかっていました。「自分でできたらいいな…」そんな軽い気持ちから電気の仕事に興味を持ち始めたんです。とはいえ、この時、電気工事士という職業については何も知らなくて。ただただ「難しいんだろう」という印象だけ。
それでも「電気工事を生業としたい」。それから地元の滋賀県へ戻り、「テクノカレッジ」という県が設置している公共職業訓練施設の電気エネルギー設備科を見つけて「これや!」って思いましたね。
――ふんわりとした興味から、実際に行動へうつされたんですね。
入校後、真正面から電気について学んでみて、改めて電気って面白いなと気づきました。何かを組み立てたり、直したり、体を動かすことが好きだったので実技の時間はとにかく楽しかった。座学はちょっと苦手でしたが、それ以上に、できなかったことができるようになっていくと、面白みが増してくるんです。日を追うごとに、自分の中で気持ちは盛り上がっていきました。
そして、半年の職業訓練を経て第二種電気工事士を取得し、滋賀県東近江市の堀電気設備工業(株)へ就職。当時は子供も幼かったため、就職先がすぐにはみつからず、断られることもありましたが、堀電気さんは快く受け入れてくださったんです。堀電気さんでは色んな事を経験させていただきましたし、迷惑をかけることもたくさんありました。ここで8年ほど経験を積み上げ、自分のスキルに自信が持てるようになったタイミングで、「自分でどこまでできるか試してみたい」「独立したらもっと収入が増えるかも」「自分でスケジュールを組んで働いてみたい」と思い、2024年4月に独立しました。堀社長が「俺が育てた」と胸を張れるように、頑張っていきたいと思っています。
――代表が女性というのは、電気業界では非常にめずらしいかと思いますが、女性技術者が活躍できる会社を作ろうと思ったきっかけを教えてください。
まだまだ現場は男性が多いせいか、女性技術者が来ると「何しにきたん」という反応を向けられてしまうことがあって。女性の技術者がもっと増えて、どの現場でもバリバリ活躍していたら、現場も変わる。ならば、私が率先して実現しよう。女性が表立って活躍できる場所を作るために、女性技術者中心の会社を立ち上げました。
実際に女性だけで担当する現場もありますが、滞りなく業務が行えていますよ。その姿をもっと見てもらいたいし、知ってもらいたいですね。

女性が働きやすい環境を作るには、「ライフステージに合わせて働き方を提案する」ことが大事
――日々、どのような思いで仕事と向き合ってらっしゃいますか。
もう、日々「やったんぞー!」という意気込みで仕事と向き合っています。現在、ビトウは女性技術者2名で担当しており、その2名でポールを建てることがあるんですが、たまに「女性だけで大丈夫ですか?他にも誰か来るんですか?」と声をかけられることがあるんですね。そういう時でも「大丈夫です!」と実践で証明したい。そういう気持ちで日々、取り組んでいます。
どんなことがあっても逃げない。どんな仕事でもそうですが、責任を持って最後までやり切ることを大事にしています。
――電気業界において、女性だからこそ活かせる強みを教えてください。
ヘアアイロンを使う、哺乳瓶を温めるなど、女性ならではの細かな生活動線をしっかり把握していますから、実際の生活目線でコンセントの配置などができるんです。また、女性更衣室や女性トイレなど、女性のみが使用する施設への改修工事を行う際も、女性がいることで出入りするお客様にも安心感を与えることができ、ご依頼いただく会社さんからもよく感謝されるんです。丁寧さや細やかさには自信がありますし、女性技術者の需要はかなり大きいと思いますよ。
それに、男性技術者だけというより、女性が入ることでお互いの強みを活かしたチームプレーができるようになり、バランスよく仕事を進めることができるのもメリットですね。

――女性技術者がもっと電気業界で活躍するためには、どのような課題を解決すべきでしょうか。
家庭との両立ができることでしょうか。所属する会社が理解をしていて、環境が整っていなければ、女性が長く技術者として活躍することはなかなか難しいんじゃないかと思います。子どもの体調不良で急に休みを取ったり、授業参観があったり…。私個人としては、何かしらの支援がないと電気工事の仕事との両立は、不可能に近い気がするんです。
何かを得るためには何かを犠牲にしなくてはならない。でも、それだと女性技術者は増えていかないでしょう? なので、女性がライフステージに合わせて働きやすい環境を作っていかねばなりません。とくに母子家庭の人を応援したいので、市が行っている「ひとり親家庭への支援」制度を紹介しています。
また、弊社では、お子さんが小さい場合はパートで短時間勤務働くとか、事務が得意であれば事務作業をメインに働くとか、その人の状況に合わせて選べるようにもしているんです。本当はご自身がやりたい仕事に取り組めるのが一番ですが、それぞれご事情もありますしね。働くママだからこそ、働くママさんの大変さがわかる。だからこそ、会社の代表として今までの仕組みを変えていけるはずですし、「こういう働き方もできるんです」というのをどんどん示していきたいんです。
どんな状況でも、どんな人にも可能性を作りたい
――今後、取り組んでいきたいことがあれば教えてください。
“協力雇用主”ってご存知ですか? 犯罪を犯した人が自立および社会復帰できるように雇い入れ、更生のお手伝いをする事業主のことなのですが、それにすごく興味がありまして。私も非行に走った経験があり、今度はその気持ちがわかるものとして私が導くお手伝いをしたいんです。
変な先入観を持たずに、その人のいいところを伸ばしてあげたいし、この仕事の面白さを伝えていきたい。うまくいかないことも出てくるでしょうが、それはそれで面白いと思うんですよ。
――そうして電気業界で働くことに魅力を感じる人が増えていくと嬉しいですね。尾藤様は今後、電気業界はどのように変わっていくと思いますか。

今後も女性技術者が増えていくと思いますし、それに伴い、女性技術者が働きやすい環境も整っていくと考えています。ビトウ最大の強みは、女性技術者が代表を務めていても、バリバリと現場の仕事もでき、従業員も女性だけですから、女性ならではの悩みにも寄り添えますし、女性が働きやすい環境も提供できる。今後、こういう会社が増えるべきだと思います。
今は立ち上げたばかりの会社を運営するのに手いっぱいなところがありますが、事業を拡大してひと段落したら、一人旅に行きたいですね。オンオフの切り替えは、仕事のモチベーションを維持するためにも重要なこと。ですから、ますは運営を安定させ、将来、思ったことがすぐにできるような環境を作ろうと思っています。
――女性がバリバリと現場で働く姿はかっこいいですよね。電気業界で働く魅力とはなんでしょうか。
何もない場所に建物がたって、電気を送った時に灯りがパッと灯る。その瞬間、すごくホッとするんですよ。電気がつくまでには夜な夜な作業をする日もあるし、間違ってやり直しをすることもある。多くの工程を経て電気がついた時はもう、感動しかないんです。この瞬間があるから頑張れるんですよね。自分の手で取り組むからこそ、充実感と達成感が全然違う。
過去に、工期が詰まっている現場があったんです。とにかく変更も多くて大変だったんですけど、苦労が多い現場こそ思い出深いと言いますか…。電気工事って、毎回現場が異なるし、いつも違ったドラマがあるのも面白いところです。
「そこに必ず感動がある」から挑戦し続けていける!
――電気工事士の仕事に興味がある人は、まず何からすべきでしょうか。
私自身、電気工事は国家資格が必要だと思っていたので、まずは資格について調べました。電気を扱うには危険が伴いますし、お客様の設備に関与するお仕事ですから、必ず資格が必要です。電気工事の仕事をする以上、資格は運転免許証のようなもの。それと同時進行で経験を積んでいくことが大事かと思います。
弊社の女性技術者は、未経験で入社し、家事、育児、仕事をしながら資格をとりました。今では一人で電柱に登って防犯灯を変えるほど主力として活躍しています。本気で取り組む人には必ずチャンスがある。それが電気業界です。
――どんな人が活躍できると思いますか?
電気工事士に限りませんが、責任感がある人でしょうか。私も自分自身がこの仕事に向いているのかどうかわからないですけど、好きだから真摯に取り組めるんです。電気の仕事って奥が深い。だからこそ追求しがいがある。自分がどこまで追求するか。どんな仕事でも本気で取り組むことは大事ですし、そこにやる気や向上心が必要だと思います。
――ありがとうございます。最後にワットマガジンの読者へメッセージをお願いします!
電気工事はやればやるほど面白いし、めっちゃかっこいい素敵な仕事。そして、そこに必ず感動があります。
「第4回電気工事技能競技全国大会」では、滋賀県代表として一般の部で出場しました。男性には腕力で敵わない部分があるかもしれませんが、繊細な作業、細やかな視点など、長所を生かして別の角度から戦うことができます。女性で尚且つ、電気業界では本当にゼロからのスタート。でも、今じゃバリバリ活躍している。そういう点でも、自分が見本になれると思うんです。今までの電気業界の殻を破りたい。第一人者になりたい。そんな思いで日々、仕事と向き合っています。一緒に、電気業界へ新しい風を吹かせていきましょう!
プロフィール
尾藤 紗希(びとう・さき)
株式会社ビトウ 代表取締役
平成27年12月堀電気設備工業(株)へ入社。
平成30年11月 第三回電気工事技能競技全国大会の関西代表として女性の部に出場を果たす。
令和4年11月第四回電気工事技能競技全国大会に滋賀県代表として一般の部に出場。
令和6年4月、株式会社ビトウを設立。
会社HP: https://bitou.co.jp/
Instagramアカウント:https://www.instagram.com/bitou.0403/