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鉄塔間の送電線張り「全自動化」へ! ~電気新聞記者が追う九州電力送配電の挑戦~

電気工事業界全体で担い手不足が深刻化する中、作業の効率化や省人化が課題となっています。九州電力送配電は、この課題解決に向け、延線作業の「全自動化」を目指した取り組みを進めています。今回は電気新聞の荻原 悠記者にその様子を伝えていただきました。
電力安定供給の要、延線作業の効率化・省人化
鉄塔間に送電線を張り渡す「延線」は、電力の安定供給を維持する上で欠かせない作業だ。
電気工事業界全体で担い手不足が深刻化する中、作業の効率化や省人化につなげようと、九州電力送配電が延線作業を「全自動化」するための取り組みを進めている。
ここでは同社の取り組みの概要を紹介する。
架空送電線を敷設する作業は「架線工事」と呼ばれ、このうち鉄塔に電線を張る作業を延線と呼ぶ。
無線通信で「不感地帯」を解消
延線は従来、電線を送り出す「ドラム場」と引き込みを担う「エンジン場」それぞれの作業員が有線電話で連絡を取り合いながら工事を進めてきた。ただ、電話線の敷設には多くの人手と時間がかかり、特に基幹送電線が通る山岳部などでの負担は大きい。
逆に、無線通信環境を整備できれば山奥でも鉄塔間の連絡が簡単になり、カメラを通じて延線の作業自動化も進めることが可能になる。
こうした考えのもと、九州送配電はまず無線通信環境が整わない「不感地帯」の削減に乗り出している。50万V日向幹線(22年6月運用開始)の建設の際、福岡市のベンチャー「MDO5合同会社」(松元孝CEO)が開発した通信回路の構成技術と、市販の機器とを組み合わせ、無線通信システムを構築した。現在は改良版を運用している。

高速度・低遅延の無線通信システム
システムは、鉄塔上部に設置し各鉄塔間の基幹伝送に用いる長距離用設備(5㌐㌹帯)と、鉄塔敷地周辺に置いて各鉄塔上部と地上部付近の通信(半径100~200㍍程度)をカバーする短距離用(2.4㌐㌹帯)で構成する。通信速度は50㍋bps~150㍋bps(実測値)、レイテンシ(遅延)は20㍉秒(同)と高速度・低遅延を維持した。
基幹伝送では、各鉄塔に中継器を置き、親器からのデータ転送をリレー方式でつなぐ「マルチホップ通信」を採用し、通信距離を鉄塔10基分に当たる約5㌔㍍まで広げた。鉄塔間の径間長は約300~500㍍、電線の延線は通常2~3㌔で区間を分けるため、延線作業時の通信を無線化できる。
遠隔監視で作業効率化
九州送配電は22年度末までに基幹送電線の電線張り替え作業などに無線通信システムを計5件導入し、クローラー金車が新線と旧線の接合部を通過する状況のカメラ監視を実施。
エンジン場に置いたモニターや手元のタブレット端末からなど、いずれも遠隔からの延線作業の監視で効果を確認した。
2025年度中の自動化達成へ
自動化に成功すれば従来よりも少ない人数、労力で工事に取り組む道が開け、新規敷設や古くなった送電線の張り替えを今後も安定的に行えるようになる。九州送配電送変電技術センターの濱洲英孝・工事技術グループ長は、「延線は複数の作業員が関わる。(通信環境整備で)円滑なコミュニケーションができれば、作業の安全性も高まる」と話す。濱洲氏によると、有線通信と無線通信を組み合わせれば、地形など各現場の環境に適した延線環境もつくれるという。
現在は送り出した電線が鉄塔に近づく際のスピードなどを感知するセンサーの開発を進めており、九州送配電は早ければ2025年度中の架空送電線の延線自動化を達成したいとしている。
送電線の建設工事で進むデジタル技術。より働きやすく、効率的な現場環境を目指して、日々、関係者の努力は続く。
プロフィール

荻原 悠
2021年入社。東京・編集局を経て23年10月から九州支局。日々、電力をはじめエネルギー全般を九州で取材し、的確な視点で独自記事を多数発信している。