現場インタビュー
子供たちが誇れる父になるために。頑張るお父さんの職業は電気保安技術者
工業高校を卒業してから20年あまり、ずっと電気を守り続ける電気保安技術者が九州電気保安協会にいます。その方の名前は松本修平さん。「電気を守るこの仕事は私の性格と合っています。一度も辞めたいと思ったことはありません」と語る松本さんとって、働くモチベーションは家族です。働く人にとって家族はどんなパワーをくれるのでしょうか? 明かしていただきました。
就職先を決めた理由は、とあるテレビCMだった
――なぜ電気に携わる仕事を選ばれたのでしょう。
「工業高校の電気科で何年も電気の勉強をしてきたので、せっかくなら今まで学んだ知識が活かしたいなと思ってこの仕事を選びました。そもそも電気科に進んだ理由は、電気は一生無くなるものではないから、安定して働くことができそうだし、勉強して損はないだろうという安易な理由からでした(笑)。高校卒業後は、電気の点検・保安を行っている九州電気保安協会に入協しました」
――九州電気保安協会に入協したきっかけを教えてください。
「これもまた単純な理由ですが、就職先をどうしようかと考えていた頃、テレビで九州電気保安協会のCMが流れて。そういえば、学校に会社案内のパンフレットがあったな…と思い出し、手に取りました。知っている協会名だったことも大きいですね」
――別の企業を受けましたか?
「20年も前のことですので、今はルールが変更されたかもしれませんが、私が在籍した頃の工業高校の就職活動は少し特殊で、1人1社しか受けることができなかったんです。各学校で採用人数が決められているので、学生は募集のあった企業や団体の就職試験を先生と相談しながら受けます。僕はラッキーなことに内定を貰うことができましたが、落ちてしまった同級生は、後期に受け直すか、専門学校に進学していましたね」
――20年以上、九州電気保安協会で働いているとのことですが、入協してから現在までの道のりを教えてください。
「最初の3年は学校や工場などの大きな建物の電気設備(自家用電気工作物)の点検や保安管理をしていました。ただこの頃は現場経験がなかったので、先輩に付いて補助員としてひたすら経験を積む日々。その後は1年間、一般家庭の電気設備の調査業務を担当し、また自家用電気工作物の点検・保安の業務に戻りました。そこで1~2年の補助員期間を経て、20代中盤の時に完全に独り立ちできました。8年ほど黙々と現場の仕事に携わり、その後、別の部署へ異動。ここでは数十人で点検をする大規模な業務を任されていました」
――自家用電気工作物の点検・保安と、大規模な点検・保安。両者はどういったところに違いがありますか?
「前者の点検・保安する建物は学校や工場などのため、電気設備の知識のないお客様に向けて説明をしなければいけないため、分かりやすい解説が求められます。一方、後者の電気設備のある建物には専門知識を持った技術者が常勤しており、電気の専門用語を使ってもOK。業界用語が分かる相手がいるのは楽ではありますが、その分、電気のプロとしてより深い電気の知識が求められました。相手となるお客様によって、会話の内容と求められる知識が異なっている点が違いですね」
子供たちに「お父さんは電気を守る仕事をしているよ」と胸を張って言いたい
――現在はまた自家用電気工作物の点検・保安をされているそうですね。
「はい、現在は5人の技術者をまとめる副長として、メンバーの業務管理をしつつ、自分自身も現場で自家用電気工作物の点検・保安をしています」
――副長として心がけていることは?
「自分より年上の方もいますので、部下とはいえ技術者としては先輩。ですから、敬意を込めて接するよう気を付けています」
――勤続20年(2020年5月時点)を超えるそうですが、辞めたいと思ったことはありましたか?
「う~ん、ないですね。地道にコツコツと業務をこなすこの仕事が、私の性分と合っています。それに私は口下手な性格で…。営業や企画職の方は相手を説得する会話力と社交性が必要ですが、この仕事は技術職ですから、技術力が重視されます。点検先のお客様に説明することもあるので、ある程度の会話力は必要ですが、そこまで高度なものを求められませんので、気持ちとしては安心感があるといいますか」
――どういった性格の方がこの仕事に合っているのでしょうか?
「自分で言うのも変ですが、真面目な性格の方が合っている気がします。私たちが取り扱うものは電気設備ですから、ちょっと間違えると感電死する可能性もある。そういった危険なものを扱う場合、手を抜くと最後はとんでもない事故を起こす可能性がありますので、いっさい手を抜くことはできません。私自身は若い時にすこし手を抜いて仕事してしまったことがあって。後から痛い目に遭い、猛省しました」
――松本さんの仕事のモチベーションになっているものはなんでしょうか。
「たくさんありますが一番は家族です。3人の子供たちに、『お父さんは何の仕事をしているの?』と聞かれたら、『電気を守る仕事をしているよ』と胸を張って言えるんです。人々のライフラインを守る仕事は誇らしいですし、子供たちから尊敬される父であり続けたいと思っています」
――素敵なお父さんですね。ではここで、最後の質問です。松本さんにとって電気とは?
「生活するうえで絶対に必要な存在。
ボタンを押せば明かりはつくし、モノも動く。人々は電気を使えることが当然だと思いながら生活されていると思うのです。親は無償の愛をくれますが、小さい頃から当たり前にもらっていたので、両親が亡くなった時にそれが当たり前にもらえるものでないと気づきます。電気もそう。その当たり前にあるものを守り、供給するために頑張っている人がいる。私もその中の1人であり、そのことに誇りを感じています」
<松本修平さんプロフィール>
2000年に、九州電気保安協会に入協。佐賀支部の保安部門及び技術部門に所属し、保安業務では、技術員を経て従事者となった以後、お客さまを担当し、主に自家用電気工作物の点検業務を行った。技術業務では、主任技術者が選任されている施設の点検、試験業務を行った。現在は、佐賀支部佐賀北事業所において、管理職として多岐に渡る業務を遂行している。
<取材・執筆>
野田綾子